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~新潟市にあるグリーフケア(ご遺族のケア)と、闘病中のご家族を持つ方のサポートのためのオフィス~


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辛くてもかけがえのない「逝く物語」に支えられて

一昨年の2月のことになりますが、㈱ニューズライン社からご依頼を頂いて「SUITO」という季刊誌の「メメントモリ」というエッセイのページに寄稿をしたことがありました。
その時から間もなく3年になりますが、久しぶりに「SUITO」を取り出してページを眺め、自分自身のこれまでを振り返るとともに、グリーフケアが持つ意味を伝えるために役に立つかもしれないなあ、と今さらながらに思うところがありました。

そこで、誌面に掲載されてから随分時間が経ってしまったのですが、ブログでは初めての、ご紹介をさせて頂きたいと思います。

~ 辛くてもかけがえのない「逝く物語」に支えられて ~
メメント モリ(死を思うこと)は、生を思うこと。命を考えること。
何気ない日々の中で、ふと、生と死を思う―そんなひとときのエッセイです。

 大切な人を亡くすのは、どんなに言葉を飾ってみても、やはりどこかに無念さや痛みがあるものです。
三年半前の夏に逝った私の母の闘病は、たいへん辛いものでした。転移癌のため腸閉塞となった母は人工肛門の手術を受けたのですが、合併症で感染症となり、腹部に三つも孔が開きました。その後、腎機能も落ち、背中には腎臓まで通す「腎瘻」という管も付きました。
 お洒落できれい好きだった母には受け入れがたい状態で「こんな汚い身体になって」といつも嘆いていましたが、その嘆きに対して私には返す言葉がありませんでした。
 
 でも、母の闘病生活の中で娘の私が一番つらかったのは、母が最後の頼みと賭けていた抗がん剤が効かなかったことを私の口から伝えることになったことでした。薬の効き目が無かったと判った日、すでに状態がかなり悪かった母の傍で、私は父と交代の泊り当番でした。
 いま思えば、予想ができたと思うのですが、父が帰って私と母だけになった時、「先生はなんて言ってたの?」と訊かれ、息が止まる思いがしました。時間にすればものの二秒位だと思うのですが、どうしよう、どうしよう、と思った末に、「明らかには小さくならなかったんだって」と私は母に言いました。
 
 絶望という字は、「望みを絶つ」と書きますが、その瞬間、私は母の望みを絶ち、そのことで自分の望みも絶ちました。それは痛恨の極みです。この瞬間、私は「天に神様がいるなら恨んでやる」と本気で思いました。
 それでもその時、母は「それがずっと知りたかったんだ」と言いました。でも、それは本当に母の真意だったのか、私は今でもわかりません。母の容体を見れば嘘のつきようはなく、母も判っていたと思うのですが、それでもあの時、本当はどう答えたら良かったのか、その答えはいまでもわかりません。
 
 その後、母はホスピスへ転院し、一か月程後に亡くなりました。その間にも口に出すのはつらいこともあり、それでも楽しいこともあり、ふだんは遠くに住んでいる弟が夜行バスでやってきて、もう口がきけなくなった母に本を見せてやっている姿など、悲しいけれど大切な記憶です。

 それから丸三年が過ぎ、実家に父を訪ねると、私たち子どものために大鍋に煮物を作ってくれていたりします。父は母が亡くなってしばらく経ったとき、「俺は悲しいんだ!」と大きな声で言いました。それは父の悲しみが私たち子どもに本当には伝わらないことの悔しさや寂しさだったと思います。

 こんなふうに、大切な人の死はその過程においても、その後にでも、その時々でさまざまな感情を引き起こします。それは決して明るく楽しいものではないですが、それでも、それは一つの宝だと思うのです。
 人の数だけ生きる物語があるように、逝く物語、見送る物語があると思います。それは誰にも模倣ができない大切な宝です。
 ひとり一人に与えられる、かけがえのない宝。悲しくてもそれが支えになるのではないかと思います。
辛くてもかけがえのない「逝く物語」に支えられて_d0300787_23542974.jpg

by griefcare | 2015-12-18 23:47 | ◆メメントモリ(寄稿文)

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